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この話は、三平の1年目の話です(全体の地図を見る →)

第1部 1年目 どん底で、考え方を変える 第4話

恩師の「いい話」が、一番こわい

算数の恩師・柴先生から届いた手紙。月5%が毎月、元本保証、紹介料。信頼していた先生の紹介に、僕は何も疑わなかった。どのポンジにもある3つの形。

台所のテーブルに置かれた、厚い封筒と手紙

01 恩師の丸い字で、「いい話がある」

マリさんとの和解が終わって、ほっとしていた夏でした。店の郵便受けに、厚みのある封筒が入っていました。差出人は、柴先生。小学校のときの、算数の先生です。

柴先生は、算数が苦手だった僕に、放課後、九九を最後まで付き合ってくれた人でした。封を開けると、あの頃と同じ、丸い字。「三平くん、元気ですか。店のことは、同窓会で聞いています」。

手紙の後半に、その話はありました。「いい資産運用の話がある。月に5%が、毎月もらえる。元本保証。人を紹介すると、紹介料も出る。運用するのは、志波さんというアセットマネージャーで、私も退職金を預けている」。

僕は、手紙を2回読みました。疑う言葉は、1つも浮かびませんでした。浮かんだのは「先生が、僕のことを覚えていてくれた」という、うれしさだけでした。

店の口座には、和解で払ったあとの残りが、まだ少しありました。「これを増やせたら、取り戻せる」。手紙を読みながら、僕は頭の中で、もう計算を始めていました。

信じている人から「いい話」が来たとき、あなたは最初に、何を確かめますか?

疑う言葉は、1つも浮かばなかった。

02 「元本保証・毎月◯%・紹介料」は、3つで1組

これは、全部が終わってから知ったことです。元本保証、毎月決まった率の配当、紹介料。この3つは、ばらばらの特典ではありません。新しい人のお金で、前の人に配当を払う仕組み。いわゆるポンジ・スキームに、共通して出てくる3点セットです。

なぜ3つなのか。元本保証は、怖さを消すため。毎月の配当は、本物だと信じさせるため。そして紹介料は、新しいお金を集め続けるため。配当の原資は、運用の利益ではなく、次に入ってくる人のお金です。だから、新しい人が止まると、配当も止まります。

月5%は、年にすると60%です。アメリカの代表的な500社の平均(S&P500)を、70年近く持ち続けた人の長い平均が、年およそ10%。その6倍を、毎月同じ額で出す運用を、僕は今も知りません。

消費者庁も金融庁も、この形の投資話について、くり返し注意を呼びかけています。そして、金融商品を扱う業者は、金融庁への登録が要ります。登録の一覧は、誰でも見られます。僕は、見ませんでした。

それでも、入れる人が後を絶たないのは、仕組みが巧みだからではありません。入口に、信じている人の顔があるからです。

配当の原資は、次の人のお金だった。

03 喫茶店で、先生の手は温かかった

喫茶店のテーブル。年配の手が、若い手の上に重ねられている

手紙の翌週、僕は定休日に、先生の家の近くの喫茶店へ行きました。20年ぶりの先生は、白髪が増えて、少し小さくなっていました。「大きくなったなあ」。先生は、僕の手の上に、自分の手を重ねました。

先生は、紺のファイルを開かずに、話しました。「退職金の半分を預けて、もう半年になる。毎月、きちんと振り込まれている。妻にも、ようやく楽をさせてやれる」。先生の目は、本当にうれしそうでした。先生に、僕をだます気など、少しもありませんでした。先生自身が、誰より信じていたのです。

その次の週、先生の紹介で、志波さんに会いました。ホテルのラウンジ。きれいなスーツ。名刺の肩書きは、アセットマネージャー。志波さんは、難しい言葉を1つも使いませんでした。「先生のご紹介ですから、三平さんは特別に」。僕はその場で、申込書に名前を書きました。

志波さんに、何も聞きませんでした。登録のこと、運用の中身、毎月同じ額が出る理由。聞かなかったのは、聞く言葉を知らなかったからではありません。先生が信じている物を、疑いたくなかったからです。

先生の信じる物を、疑えなかった。

04 どのポンジにも、ある3つの形

5年たった今、僕はあの手紙を、表にして見ることができます。言われたこと、本当のところ、確かめ方。手紙に書いてあった3つは、きれいに3つの行に収まりました。

どのポンジにも、ある3つの形:元本保証(免許のない人がうたうのは、出資法で禁じられている)・毎月◯%(月5%は年60%、市場の長い平均の6倍)・紹介料(新しいお金を集める燃料)。確かめ方=金融庁の登録一覧で業者名を探す

一番上。銀行のような免許のない人が、元本保証をうたってお金を集めることは、法律(出資法)で禁じられています。値動きのある物に、減らない約束はできないからです。「元本保証」と聞いた時点で、本当は、話を終えてよかった。

真ん中。毎月同じ額が出る理由を、僕は聞きませんでした。あとで楊さんの講座で教わった言葉があります。「知人の紹介は、紹介者にまずメリットがある」。紹介料が出る話は、紹介する側から先にお金が動く仕組みです。

一番下。確かめ方は、1つだけです。金融庁の登録一覧で、業者の名前を探す。無ければ、返事をしない。たった5分で済むことを、僕はしませんでした。先生がいい人であることと、話が本物であることは、別だったのです。

紹介者がいい人かと、話が本物かは、別。

05 「いい話」が来たら、その場で返事をしない

夜の台所。ノートパソコンを開く男の後ろ姿

志波さんに会った夜、妻に話しました。妻は「柴先生の紹介なら、間違いないよね」と言いました。妻も、僕も、同じ所を見ていました。先生の顔です。話の中身は、2人とも見ていませんでした。

今の僕が変えたのは、3つです。「いい話」は、その場で返事をしない。家に帰って、金融庁の登録一覧で業者名を探す。そして、紹介してくれた人に「ありがとう」と、「確かめてから返事します」を、セットで言う。

3つ目が、一番むずかしい。恩のある人に「確かめます」と言うのは、疑っているように聞こえるからです。でも僕は、確かめなかったせいで、先生との関係のほうを失いかけました。その話は、次でします。

柴先生は、退職金の半分を入れていました。先生もまた、信じていた側でした。だから僕は、先生を責める言葉を、今でも1つも持っていません。持っているのは、「確かめてから返事をする」という、自分への決まりだけです。

「ありがとう」と「確かめます」は、セットで言う。

06 今日やること:業者の名前を、登録一覧で探す

今日やることは、1つだけです。今、誰かから聞いている投資の話があるなら、その業者の名前を、金融庁の「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」で探してください。 見つからなければ、返事はしないでください。

もし話の中に「元本保証」「毎月◯%」「紹介料」の3つがそろっていたら、探すまでもありません。相談先は、金融サービス利用者相談室(金融庁)と、消費者ホットライン188です。

次の話は、1-5「店のお金300万円が、3か月で消えた」です。僕が志波さんに入れたのは、自分のお金ではありませんでした。

探して無ければ、それが答え。

情報元

  • 消費者庁・国民生活センター | 元本保証・高利回り・紹介をうたう投資話への注意喚起
  • 金融庁「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」/金融商品取引法(金融商品取引業を行うには登録が要る)/出資法(元本保証をうたって出資金を受け入れることの禁止)
  • S&P500 配当込み 1957〜2025年 年平均約10%(米ドル建て・税引き前) | S&P Dow Jones Indices のデータをもとにした計算(DQYDJ/OfficialData)
  • 講座 第13回「知人の紹介は、紹介者にまずメリットがある」(講義ノートより)

※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)
投資の話で「元本保証」「月◯%」「紹介料」が出てきたら、金融庁の登録一覧で業者を確かめてください。