確認中の版です(公開前・内容は直している途中です)
すべての記事

この話は、三平の1年目の話です(全体の地図を見る →)

第1部 1年目 どん底で、考え方を変える 第7話

黒字なのに現金がない。理由、言えますか?

「売上はいくら?」には即答できた。「利益は?」で止まった。楊さんとノートに引いた3本の線で、200万円の黒字がどこへ消えたかが見えた夜。

閉店後のレジの横で、通帳と電卓を手にする三平

01 「売上はいくら?」から始まった

12月の最初の月曜日。閉店後の店で、僕は楊さんとレジの横に座っていました。育毛剤の会社の話が消えてから、楊さんは月に一度、店に寄ってくれるようになっていました。楊さんは、育毛剤の話を一度もしませんでした。聞くのは、店の数字のことだけでした。

楊さんは、コーヒーを一口飲んでから聞きました。「三平さん、売上はいくら?」。僕は即答しました。「2,000万円です」。「じゃあ、経費は?」。僕は少し考えて、「だいたい……」と口ごもりました。

「利益は?」。答えられませんでした。「今、現金はいくらある?」。これは答えられました。「ないです」。楊さんは笑いもせず、ノートを僕の前に置きました。「売上と利益と現金は、全部別の物だよ。まず、それを分けて書こう」。

僕は8年店をやって、売上しか見ていなかった。予約表が埋まっていれば安心し、通帳が減れば不安になる。その繰り返しで、間にある数字を一度も見ていなかったのです。あなたは、この4つを今すぐ言えますか?

売上は言えた。利益は、言えなかった。

02 利益が出ていても、現金はなくなる

先に、あとで知ったことを書きます。帳簿の上で黒字でも、現金がなくなることは普通に起きます。利益の表に出てこないお金の出入りがあるからです。税理士さんの試算表に「黒字」と書いてあっても、口座の残高はそれとは別に動きます。

たとえば、設備のローンの元本の返済。これは経費にならないのに、現金は出ていきます。店の口座から僕が持ち出したお金も同じです。志波ファンドに入れた300万円は、帳簿の「経費」には載りませんでした。でも、現金は消えました。

税金は、利益が出た年のあとからまとめて来ます。カードで払ってもらった売上は、入金が翌月にずれます。薬剤を多めに買えば、在庫という形で現金が棚に変わります。売れるまで、お金は棚の上で眠ります。

こうして、利益と現金は離れていきます。黒字なのに、支払いの日に口座が足りない。僕の場合は、300万円の持ち出しと、和解で払ったお金が重なった年でした。どちらも、帳簿の利益を1円も減らさない。それなのに、口座からは大きなお金が出ていったのです。

黒字は帳簿の話。現金は、口座の話。

03 ノートに引いた、3本の線

閉店後の店で、ノートを前に並んで座る楊さんと三平の後ろ姿

楊さんは、ノートの見開きに縦の線を3本引いて、4つの欄を作りました。上から、売上・経費・利益・現金。「ここに、今年の数字をざっくりでいいから入れてみて」。

売上は2,000万円。経費は、スタッフ3人の給料、家賃、薬剤、光熱費、税理士さんの料金。思い出せる限り足して、約1,320万円。書き出してみると、思っていたより薬剤の仕入れが大きいことにも気づきました。「三平さん、自分の取り分は?」。月40万円、年480万円です。「それも、経費の側に入れなさい。自分の給料を引いたあとで残る物が、店の力だから」。

残ったのは、約200万円。利益率にすると10%でした。「売上2,000万円で利益200万円。経営の目安では、優良企業だよ」。僕は一瞬、うれしくなりました。8年間で初めて、自分の店に点数が付いた気がしました。

次の瞬間、楊さんが4つ目の欄を指しました。「で、現金は?」。0円。200万円の利益は、どこへ行ったのか。志波ファンドの300万円、和解の支払い、設備ローンの元本。書き出すと、全部つながりました。

200万円の黒字は、ちゃんとあった。消えていただけだった。

04 4つの言葉を、1枚の表で

売上・経費・利益・現金の4つの違いの表:三平の店は売上2,000万円・経費1,800万円・利益200万円(黒字)・現金ほぼ0円。ローンの元本・持ち出し300万円・税金は利益の表に出てこない

答え合わせです。売上は、お客様からいただいたお金の合計。経費は、店を回すために出ていったお金。利益は、売上から経費を引いて残った物。現金は、今この瞬間に口座と金庫にあるお金。

4つは、名前も中身も別の物です。売上が増えても、経費が同じだけ増えれば利益は増えない。利益が出ても、帳簿に載らない支払いがあれば現金は残らない。僕は、この4行を混ぜていました。売上が上がった月は、使っていいお金が増えたと思い込む。それが、1冊の通帳の中で8年続いていました。

楊さんは、もう1つ付け足しました。「お金には役割があるよ。使う・育てる・守る・備える。店の現金は『使う』。志波ファンドに入れた300万円は、本当は『備える』に置いておくお金だった」。講座の第3回で教わる「資産にはそれぞれ役割がある」という考え方です。

僕は、使うお金と備えるお金を、1つの口座に入れていた。だから、使ってしまった。表に分けて初めて、それが見えました。

使うお金と、備えるお金を、同じ口座に入れていた。

05 毎月1日、4つの数字を書く

朝の店の事務机で、ノートにペンを走らせる手元

その夜から、僕は1つの習慣を始めました。毎月1日の朝、ノートに4つの数字を書く。先月の売上・経費・利益、そして今朝の現金。計算は税理士さんを待たず、ざっくり自分で出します。正確さより、毎月続けることを優先しました。現金の欄だけは、通帳を開いて今の残高を写します。頭の中の数字は、だいたい多めに出るからです。

3か月目に、変化がありました。現金の欄を見て、「来月の税金の支払いに足りない」と1か月前に気づけたのです。前の年なら、支払いの朝に青くなっていました。

ナオミさんが、ノートを見て言いました。「店長、それ、私たちにも見せてください」。この一言が、2年目の「毎月の発表会」につながるのですが、まだ先の話です。和子さんは「うちの家計簿と同じですね」と笑いました。

妻には、現金の欄だけ見せました。「ない」と書いてある欄を見て、妻は怒りませんでした。「分かって、よかった」。それだけでした。

正確さより、毎月書くこと。

06 今日やること:4つの数字を、1行ずつ

今日やることは、1つだけです。紙に4行、「売上・経費・利益・現金」と書いて、先月の数字を入れてください。 ざっくりで構いません。利益が分からなければ、売上から思いつく経費を引くだけで十分です。スマホのメモでも構いません。

4行目の現金は、今、通帳と金庫にある分をそのまま書きます。利益の行と現金の行が大きく違っていたら、その差がどこへ行ったかを、1つだけ思い出してみてください。ローンの元本か、持ち出しか、税金か。見つかったら、その項目を4行目の横に小さく書き足してください。来月から、消える前に見えるようになります。

次の話は、1-8「国民年金、月6.9万円。それで老後いけますか?」です。マリさんの裁判で払った保険料が、今度は僕自身の話になります。

利益と現金の差は、どこへ行ったか。

情報元

  • 講座 第3回「資産にはそれぞれ役割がある(使う・育てる・守る・備える)」・第14回「会社・生活・納税が1つの財布」(講義ノートより)
  • 利益率10%=優良企業の目安 | 経営の一般的な目安(三平の店の数字は試算)

※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)