第2部 2年目 財布と会社を整える 第6話
売上は、いちばん高い買い物です
広告の見積もりを握って楊さんの事務所へ。「売上は客単価×来店回数×客数。入口は3つだけ。そして売上は高い買い物だよ」。3つの入口と、それぞれの値札を1枚の表に。

01 冬の朝、僕は広告の見積もりを握っていた
2年目の冬でした。口座は3つに分かれ、会社になり、スタッフとの決まりも作った。店は落ち着いていました。落ち着くと、人は欲が出ます。僕の欲は、「そろそろ売上を上げたい」でした。
朝、店の窓の前で、僕は広告会社の見積もりを握っていました。新規のお客様向けに、月10万円。初回半額のクーポン付き。担当の人は「新規が月20人は来ますよ」と言いました。
売上2,000万円を、2,400万円にしたい。1年目のどん底から考えれば、ぜいたくな悩みでした。でも、僕の頭の中には、まだ「売上が上がれば全部よくなる」という考えが、しっかり残っていました。
見積もりの紙は、1枚でした。でも、その1枚の重さを、僕はまだ知りませんでした。僕は見積もりを持って、楊さんの事務所に向かいました。「売上を上げる方法を、教えてください」。
落ち着いた店で、僕は欲を出した。
あなたも「売上さえ上がれば」と、朝の店で思ったことはありませんか?
02 売上には、入口が3つしかない
楊さんが最初に言ったのは、方法ではなく、式でした。「売上は、客単価、来店回数、客数。この3つの掛け算でしかない。入口は3つだけだよ」。
僕の店で言えば、客単価が8,000円、1人のお客様が年に5回来て、お客様が500人。掛けると、2,000万円になります(試算)。売上を上げるとは、この3つのどれかを上げることです。
僕はこの式を、8年間、一度も書いたことがありませんでした。売上は「がんばれば上がる物」だと思っていたからです。式にすると、がんばる場所が3つに分かれて見えます。
客単価を上げるなら、メニューを足すか、値段を見直す。来店回数を上げるなら、次回の予約を取るか、来る間隔を縮める提案をする。客数を上げるなら、紹介か、広告で新規を呼ぶ。
僕が握っていた見積もりは、3つ目の入口でした。楊さんは見積もりを見て、1つだけ聞きました。「この20人、1人いくらで買うことになる?」。僕は答えられませんでした。
売上の入口は、3つしかない。
03 楊さんの一言「売上は、高い買い物だよ」
「月10万円で20人なら、1人5,000円で買うことになる。初回は半額だから、1人4,000円の売上。買った値段より、売上のほうが安い」。楊さんは、ノートに矢印を3本書きながら言いました。
「しかも、お金だけじゃない。新規のお客様は、カウンセリングに時間がかかる。三平くんの体力も使う。2回目に来てくれるのは、半分もいないかもしれない。広告は、お金と時間と体力の3つで払う買い物なんだ」。
僕は、黙っていました。楊さんは続けました。「客単価も同じ。メニューを足すには練習の時間がいる。値上げには、断られる勇気がいる。来店回数を上げるにも、声をかける時間がいる。売上は、どの入口から入っても、高い買い物だよ」。
「上げるな、とは言わない。ただ、買う前に値札を見なさい。売上という商品の値札を。見ずに買うと、売上は上がったのに、お金と時間が減る」。
帰り道、僕は1年目の自分を思い出していました。朝8時半から夜11時まで働いて、年商2,000万円。あれも、時間と体力で買った売上でした。
売上という商品にも、値札がある。
04 3つの入口と、それぞれの値札
楊さんの話を、表にしました。3つの入口と、上げる手と、それぞれにかかる物。かかる物は、お金だけではありません。時間と、体力です。

客単価の入口は、お金はあまりかかりません。かかるのは、新しい技術の練習の時間と、値上げを伝える勇気です。僕の店では、トリートメントの説明を丁寧にするだけで、客単価は少し上がりました。
来店回数の入口も、お金はほぼ要りません。かかるのは、お会計で次回の予約をおすすめする、30秒の手間です。この30秒を、僕は8年間、照れくさくて飛ばしていました。
客数の入口が、一番高い。広告費がかかり、新規は施術が長く、体力を使い、2回目に来るかは分からない。もちろん紹介という手もありますが、紹介は、今のお客様が満足して初めて生まれます。
表を書いて分かったのは、僕が一番高い入口から、一番先に入ろうとしていたことでした。お金のかからない2つの入口を、素通りして。
一番高い入口から、入ろうとしていた。
05 僕が買った売上と、買わなかった売上
広告は、出しませんでした。代わりに、2つのことを始めました。1つ目、お会計のときに、次回の予約を提案する。塚ちゃんが「次回予約カード」を作ってくれました。2つ目、トリートメントの説明を、カウンセリングの中に入れる。
3か月後、来店回数は、少しだけ上がりました。客単価も、少しだけ。合わせて売上は、月に数万円。広告会社が言った「月20人」には遠く及びません。でも、僕が払ったのは、30秒の手間と、説明の練習だけでした。
ナオミさんが言いました。「次回予約、私のお客様は半分くらい取ってくれます。前から、言えばよかった」。和子さんは「カードがあると、私でも言えます」と笑いました。
広告会社には、丁寧に断りの連絡をしました。「また必要になったら」と言われました。必要になる日は、来るかもしれません。でもその時は、値札を見てから買います。
楊さんの「売上は高い買い物」という言葉は、このあと、僕の考え方を大きく変えることになります。売上を上げるより、安くできることが、店の中にあるのではないか。その答えは、3年目の話で書きます。
僕が払ったのは、30秒の手間だけだった。
06 今日やること:3つの入口の数字を、1行ずつ
今日やることは、1つだけです。あなたの店の、客単価・来店回数・客数を、ざっくりでいいので1行ずつ書いてください。 正確でなくて構いません。掛けて、年商に近ければ合っています。
書けたら、3つのうち、お金をかけずに上げられる入口はどれかを考えてください。たいてい、来店回数です。次のお会計で、次回の予約を1回だけ提案する。それが、一番安く買える売上です。
次の話は、2-7「腰を痛めた月、収入ゼロ。備え、ありますか?」です。売上の値札が見えた冬の終わり、僕の腰が、悲鳴を上げました。
一番安い売上から、買う。
情報元
- 売上=客単価×来店回数×客数 | 経営の基本の式(三平の店の数字は試算)
- 講座 第14回「頑張っているけれど貧乏な経営者が一番多い」(講義ノートより)
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



