第2部 2年目 財布と会社を整える 第7話
腰を痛めた月、収入ゼロ。備え、ありますか?
8月の朝、腰が動かなくなった。10日間、店に立てない。楊さんは「投資より先に、現金を置く」と言った。生活費6か月分。増やす前に、守る話。

01 8月の朝、靴下がはけなかった
2年目の8月。朝6時半、ベッドの横で靴下をはこうとして、腰に電気が走りました。そのまま床に座り込み、動けない。妻が車で病院へ連れて行ってくれました。待合室で、僕はスマホの予約表を開き、その日の7人のお客様に、1人ずつお詫びの連絡をしました。
コルセットは、1年目からずっと巻いていました。立ちっぱなしの仕事です。腰が重いのは当たり前だと思って、だましだまし来ていた。その日は、だませませんでした。
10日間、店に立てませんでした。ナオミさんと塚ちゃんと和子さんが、店を回してくれた。それでも、僕の指名のお客様は予約を先に延ばします。8月の売上は、前の月の6割でした(僕の店の場合の試算)。
寝ている間、頭にあったのは腰の痛みより、通帳でした。1年目の冬に3日寝込んだときは、個人でやっていたので、その月の僕の取り分はゼロでした。もし10日が、3か月だったら。
腰より先に、通帳が痛かった。
あなたが明日から1か月、店に立てなくなったら。家の支払いは、何か月もちますか?
02 体が資本の仕事は、収入の止まり方が急です
放っておくと、何が起きるか。まず、収入が止まります。会社員なら有給休暇があり、健康保険から手当が出ることもあります。個人で店をやっていた頃の僕には、どちらもありませんでした(公的な手当の中身は、年金事務所や社会保険労務士にご確認ください)。
次に、固定費は止まりません。家賃、スタッフの給料、家のローン、学費。店が開いていようがいまいが、毎月同じ日に出ていきます。僕の店は、家賃と給料だけで月に90万円ほど出ていきます(試算)。寝ていても、です。ナオミさんの子どもの学費も、塚ちゃんの結婚の準備も、僕の腰を待ってはくれません。
そして一番こわいのは、ここで「売る」ことです。備えがない人は、下がった日に資産を手放します。楊さんの講座には、こんな言葉があります。「素人は上がったら買い、下がったら売る」。売ってしまう理由の多くは、相場ではなく、生活費でした。
1か月先に使うお金を、増やす側に回してはいけない。1年目に志波ファンドへ店のお金を入れた僕は、それを300万円で学んだはずでした。腰で、もう一度学び直したのです。
売る理由は、相場ではなく、生活費だった。
03 「増やすより先に、置くんだよ」

腰が治った週末、楊さんに会いに行きました。喫茶店の窓際。僕は少し前のめりで聞きました。「先生、やっぱり早く投資を始めたほうがいいですよね。腰がこわくなりました」。
楊さんは、コーヒーを置いて言いました。「逆だよ、三平くん。投資より先に、現金を置く。生活費の6か月分」。
「6か月もですか」「6か月。体が止まっても、半年は何も売らずに暮らせる額。それが先。増やすのは、その後」。
そして、こう続けました。「このお金は、5年10年放置できるお金か。投資に回す前に、毎回それを自分に聞きなさい。答えがノーなら、まだ置く段階」。
僕は、未来の口座に入れていた月5万円を、もう市場に入れるつもりでいました。楊さんの一言で、順番が逆だったと分かりました。増やす前に、守る。守る前に、備える。僕は、その場で手帳に「180」と書きました。
増やすのは、備えのあと。
04 備えの順番は、現金→守り→育てる
講座では、お金に4つの役割があると教わります。使う・備える・守る・育てる。僕が1年目に学んだのは「混ぜない」こと。2年目に学んだのは、「順番」でした。

最初は、備える。生活費の6か月分を、現金で置く。僕の家の生活費は、家のローンと食費と学費で月およそ30万円。6か月分で180万円です(試算)。
次に、守る。病気やケガで出ていくお金を止める物。公的な手当の確認と、要る分だけの保険です。守りにお金をかけすぎると、備えも育てるも遅れます。中身は、年金事務所や社会保険労務士に聞いてください。
最後に、育てる。ここで初めて、5年10年放置できるお金だけを、市場に回します。1か月先に使うお金は、ここには1円も入れません。
順番を守るだけで、下がった日に売らずに済みます。備えとは、増やすためのお金を、守る仕組みでした。
備えは、増やすお金を守る仕組みだった。
05 先取りを、月10万円にした

腰が治ったあと、僕は3つのことを変えました。1つ目、備えの目標を180万円と紙に書き、未来の口座の通帳に挟んだ。2つ目、月5万円の先取りを、月10万円に上げた。法人にして整理した保険とサブスクの分と、妻のパート代の一部で、何とか組めました。3つ目、店の口座にも、家賃と給料の1か月分を残すと決めた。
妻には、腰の夜に全部話しました。「もし僕が3か月立てなかったら、今の通帳だと2か月目で止まる」。妻はしばらく黙ってから言いました。「じゃあ、私のパート代、半分はそっちに入れる。責任は持たないけど、お金は出す」。妻らしい言い方でした。通帳に挟んだ紙は、妻が「見えるところに」と冷蔵庫に貼り直しました。
和子さんは、僕の腰を見て「オーナー、シャンプー台の高さ、変えましょう」と言ってくれました。備えは、お金だけではなかった。
責任は持たないけど、お金は出す。
06 今日やること:生活費の6か月分を、1つの数字にする
今日やることは、1つだけです。毎月の生活費を書いて、6倍してください。 家賃かローン、食費、光熱費、学費、通信費。細かくなくて構いません。出た数字が、あなたの「備え」のゴールです。
今の通帳の残りと、そのゴールの差を見てください。差が大きくても、落ち込まなくて大丈夫です。僕も、180万円に対して、その日の残りは20万円でした。差を知った日から、備えは始まります。ゴールまでの月数も、書いておいてください。月5万円なら、160万円の差は32か月。長く見えますが、始めなければ、永遠に32か月のままです。
次の話は、2-8「店の数字をスタッフに見せたら、店が変わった」です。腰で休んだ10日間、3人が店を回してくれた。そこから、月に1回の発表会が始まります。
差を知った日から、備えは始まる。
情報元
- 講座 第3回「資産にはそれぞれ役割がある」「生活費6か月分は現金で」(講義ノートより)
- 講座 第11回「5年10年放置できるお金でやる」(講義ノートより)
- 講座 第2回「素人は上がったら買い、下がったら売る」(講義ノートより)
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



