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この話は、三平の2年目の話です(全体の地図を見る →)

第2部 2年目 財布と会社を整える 第8話

店の数字をスタッフに見せたら、店が変わった

月に1回、閉店後に店の数字をスタッフと見る発表会。最初は僕だけが話した。3か月目、和子さんが手を挙げた。「薬剤の発注、まとめたら安くなります」。

閉店後の明るい美容室。小さなテーブルを囲む椅子と、立つ三平の後ろ姿

01 9月の月曜、閉店後。僕だけがしゃべっていた

腰で休んだ10日間、店を回してくれたのは、ナオミさんと塚ちゃんと和子さんでした。復帰した日、僕はふと気づきました。3人は店を回せる。でも、店の数字を知っているのは、僕だけだ。

9月の最初の月曜日。閉店後の店に、椅子を3つ、小さなテーブルの周りに並べました。紙を1枚。先月の売上、経費、利益。弁当も焼肉もない、ただの紙です。僕はそれを読み上げました。

30分、しゃべったのは僕だけでした。3人は黙って紙を見ていた。終わりに、ナオミさんが小さな声で言いました。「それ、私たちが聞いていいんですか」。

8年、僕は店の数字を誰にも見せたことがありませんでした。隠していたつもりはない。「オーナーの仕事」だと思っていただけでした。

店は回せる。でも数字は、僕しか知らなかった。

あなたの店の数字を知っているのは、あなただけではないですか?

02 数字を1人で抱えると、判断も1人に集まる

放っておくと、何が起きるか。まず、決めることが全部オーナーに集まります。薬剤の発注も、メニューの値段も、土曜の予約の組み方も。僕が倒れた月、店は回ったけれど、決める人がいなかった。和子さんは発注を止め、塚ちゃんは値段を聞かれて困り、ナオミさんは僕に電話をかけ続けました。店の数字は、僕の頭の中にしかなかったのです。

次に、スタッフは「売上を上げよう」とだけ言われ、何のためかが分かりません。連合総研の調査では、美容師は1年目で45%、5年以上で88%が辞めています。理由はさまざまでしょう。ただ、この店がどこへ向かっているかが見えない店に、人は長くいません。僕の店が、そうでした。

そして、家でも同じことが起きていました。日本生命の2023年の調査では、経営者の妻の47.7%が将来に不安を感じていて、夫とお金の話ができていない妻では65.3%に上がります。数字を見せてもらえない相手は、不安が増えていく。店も、家も。

楊さんの講座に、こんな言葉があります。「毎月の発表会。焼肉食いながらでも」。家族の話として教わった言葉でしたが、僕には店の話に聞こえました。

見せない数字は、相手の不安になる。

03 3か月目、和子さんが手を挙げた

薬剤の棚の前に立つ和子さんの後ろ姿

2回目の10月は、塚ちゃんが1つだけ質問しました。「薬剤って、売上の何割なんですか」。僕は答えられませんでした。帰って計算すると、およそ1割でした(僕の店の試算)。

3回目の11月。経費の欄を読み上げたとき、和子さんが手を挙げました。「オーナー、薬剤の発注、まとめたら安くなります」。

発注は、和子さんの仕事でした。3つの会社に、少しずつ、週に何度も頼んでいる。送料が毎回かかり、まとめ買いの値引きも逃している。「月に1回、1社にまとめたら、2万円は違います」。和子さんは、紙の裏に数字を書いて見せてくれました(試算)。

僕は8年、発注の明細を見ていませんでした。見ていた和子さんは、言う場がなかっただけだった。数字を見せた瞬間、店で一番詳しい人が、店で一番の提案をしたのです。

その夜、塚ちゃんが言いました。「来月、トリートメントの単価の話をしていいですか」。ナオミさんは「土曜の午後、1枠空いてるんですよね」と手帳を開きました。発表会が、僕の報告会ではなくなった夜でした。

一番詳しい人には、言う場がなかっただけだった。

04 発表会で見るのは、5つだけ

楊さんに「何を見せればいいですか」と聞くと、答えは「難しくしないこと」でした。数字は5つ。紙は1枚。月に1回。焼肉でも、弁当でもいい。

発表会で見る5つの数字の表:①売上(先月と去年の同じ月)②客数と客単価 ③経費(薬剤・人件費・家賃)④利益 ⑤現金(店の口座の残高)。見せると誰が何を言えるようになるか

売上は、先月の合計と、去年の同じ月。客数と客単価は、何人来て、1人いくらか。経費は、薬剤・人件費・家賃の3つに分ける。利益は、売上から経費を引いた残り。現金は、店の口座に今いくらあるか。

もう1つ、線を引きました。見せるのは店の数字。僕の役員報酬と、僕の個人の通帳は見せない。講座の「家族に見せるお金と、見せないお金」の教えを、店に当てはめた形です。全部ではなく、見せる物を先に決める。

5つに絞ると、不思議なことが起きます。数字が少ないから、1つ1つに意見が出る。経費が3つに分かれているから、和子さんは薬剤の話ができた。楊さんは最後に笑いました。「焼肉にするかどうかは、利益の行を見てから決めなさい」。

全部見せるのではなく、見せる物を決める。

05 浮いた2万円は、みんなの弁当代になった

閉店後の店の小さなテーブル。弁当を囲む4人の手元

12月から、発表会は毎月第1月曜の夜と決めました。弁当は店持ち。5つの数字を書いた紙は、休憩室の壁に貼る。和子さんの発注の案は、12月から実行し、薬剤の経費は月2万円ほど下がりました(試算)。紙を貼った日から、休憩室で薬剤の話が増えました。数字は、壁に貼ると会話になります。

浮いた分の使い道は、みんなで決めました。半分は年末の食事会に。残りは、店の口座に置く。「オーナーが倒れても、2か月はもつんだ」と塚ちゃんが紙を見て言ったとき、僕は腰の10日間を思い出しました。

ナオミさんは、帰り際にこう言いました。「数字を見たら、休みの日も店のこと考えちゃいます。いい意味で」。妻にその話をすると、「うちもやる?」と笑いました。店の発表会が、家の発表会につながった瞬間でした。

休みの日も店のことを考える。いい意味で。

06 今日やること:先月の売上を、1つだけ言う

今日やることは、1つだけです。先月の売上の数字を、スタッフに口に出して伝えてください。 「先月の売上は◯◯円でした。ありがとう」。それだけで構いません。紙も、会議も、まだ要りません。僕の最初の一言は、「先月、ありがとう。売上は去年より少し多かった」でした。たった、それだけ。

言いにくければ、理由を考えてみてください。少ないのが恥ずかしいのか、多いと給料の話になるのが怖いのか。その理由こそ、あなたが1人で抱えている物です。僕は「オーナーの仕事」という言い方で、8年それを抱えていました。

次の話は、2-9「借りて投資。その話、崖です」です。店が少しずつ変わり始めた冬、僕の所にまた「早く増やせる話」が届きます。

1人で抱えている理由が、見せない理由だった。

情報元

  • 講座 第14回「毎月の発表会。焼肉食いながらでも」「家族に見せるお金と見せないお金」(講義ノートより)
  • 美容師の離職 | 1年目45%・5年目以上88%:連合総研(DIO 323)
  • 経営者の妻の47.7%が将来に不安(夫と話せていない妻は65.3%) | 日本生命「夫婦の日」調査 2023年

※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)