第3部 3年目 売上より利益。身軽にして現金化 第3話
持ち家は資産? 僕の家は、負債でした
固定資産税の納付書を手に、家を見上げた。利息・税金・修繕・保険で、持っているだけで月6.5万円。楊さんは紙に2列を書いた。「お金を生まない物は、資産じゃなく負債だよ」。

01 5月の納付書を、玄関で開けた
5月の夕方、ポストに市役所からの封筒が入っていました。固定資産税の納付書です。年に約12万円。僕は封筒を持ったまま、自分の家を見上げました。
35歳の時に買った家です。木造2階建て、小さな庭つき。妻と「夢のマイホームだね」と言い合って、35年のローンを組みました。毎月の返済は約9万円。3年目の時点で、残りは約2,300万円ありました。
親にも、先輩にも、言われてきました。「家は資産だよ。家賃を払うより、自分の物になるほうがいい」。僕もそう信じていました。1年目に楊さんと「資産と負債の紙」を書いた時も、家は迷わず資産の列に書きました。
でも、納付書を手にした夕方、ふと思ったのです。この家は、毎月、僕にいくら持ってきてくれているのだろう。答えは、1円もない。持ってくるどころか、税金を取りに来ている。
夢のマイホームは、どっちの列か。
あなたの家は、資産の列に書いてありますか。それとも、負債の列ですか。
02 持っているだけで、月6.5万円が出ていく
家を持っているだけで出ていくお金を、僕は数えたことがありませんでした。数えてみると、4つありました。
1つ目、ローンの利息。毎月約9万円の返済のうち、元本を減らしているのは約6万円で、約3万円は利息です。残りが約2,300万円、年1.5%で計算した、僕の場合の数字です。2つ目、固定資産税と都市計画税。年約12万円を12で割ると、月約1万円。3つ目、修繕の積み立て。マンションと違って、戸建てには管理費も積立金もありません。誰も取りに来ないかわりに、誰も貯めてくれない。月2万円は置いておくべき額でした。4つ目、火災保険と地震保険で、月約5千円。
合計、月約6.5万円。1年で約78万円。元本の返済とは別に、持っているだけで出ていく額です。賃貸なら、家賃だけで終わる。持ち家は「家賃を払っていない」つもりで、見えない家賃を払っていました。
放っておくと、どうなるか。ローンが終わっても、利息以外の3.5万円は止まりません。年金だけの暮らしになっても、納付書は来ます。しかも、この家は貸していないので、家賃は1円も入りません。出ていく一方でした。
家は、黙って月6.5万円を連れていく。
03 「売った日に、初めて資産になる」

次の週、楊さんにカフェで会い、納付書を見せました。楊さんは何も言わず、ノートに線を1本引いて、2列を作りました。左に「お金を生む物」、右に「お金が出ていく物」。
「三平くん、この家は、毎月いくら生んでる?」「……ゼロです」「じゃあ、毎月いくら出ていく?」「6万5千円くらいです」。楊さんは、家を右の列に書きました。「お金を生まない物は、資産じゃなく負債だよ」。講座の第3回で、僕が一番ひっかかった言葉でした。
僕は反論しました。「でも、住んでいます。住めているのは、家のおかげです」。楊さんはうなずきました。「住む、は使うこと。使う物は使う物であって、資産ではない。車も、服も、同じ」。
「売れば、お金になります」。僕がそう言うと、楊さんは紙を指さしました。「売った日に、初めて左の列に移る。それまでは、右の列。毎月6万5千円を連れていきながら、売った日の値段は誰にも分からない」。僕は、それ以上、言い返せませんでした。
売った日まで、家は右の列にいる。
04 使う物を「資産」と呼ぶと、判断を間違える

講座の第3回で教わったのは、資産には役割がある、ということでした。使う・育てる・守る・備える。家は「使う」の役割です。使う物にいくら払うかは、その人の自由です。好きな家に住むのは、悪いことではありません。
問題は、使う物を「資産」と呼んでしまうことでした。資産と呼ぶと、持っているだけで安心する。老後の備えだと思い込む。出ていくお金を数えなくなる。僕は、まさにそれでした。家があるから大丈夫、と思いながら、毎月6.5万円を数えていなかった。
もう1つ、気づいたことがあります。この6.5万円は、僕が店で出している利益から払われていた、ということです。朝8時半から夜9時まで働いて出した利益の一部が、家に、黙って入っていく。店の経費は1行ずつ並べたのに、家の経費は1行も並べていなかった。
楊さんは、家を売れとは一度も言いませんでした。言ったのは、列を間違えるな、です。家が悪いのではありません。呼び方を間違えると、判断を間違える。それだけです。
家があるから大丈夫、で数えなくなる。
05 紙の家を、右の列に書き直した

その夜、僕は1年目に書いた「資産と負債の紙」を引き出しから出し、妻の前に置きました。そして、家を資産の列から、負債の列へ書き直しました。
妻は、嫌な顔をしました。「この家、気に入ってるのに」。僕は言いました。「気に入っているのと、お金を生むかは、別の話なんだって」。妻は黙って、紙を見ていました。
「で、いくら出てるの」。妻がそう聞いたので、月6.5万円、と答えました。妻は電卓を叩いて、言いました。「毎月6万5千円って、毎月、旅行に行ける額じゃない」。妻は、責任を持つのが嫌いな、普通の人です。難しい話は僕に任せる、とずっと言っていました。その妻が、電卓を叩いたのは、初めてでした。
その夜、決めたのは1つだけです。この家をどうするかは、まだ決めない。でも、家の数字は、これから2人で見る。妻は「決めなくていいなら」と、うなずきました。
決めるのは先。数字だけ、2人で見る。
06 今日やること:家の「本当の値段」を1つの数字にする
今日やることは、1つだけです。ローンの返済予定表と、固定資産税の納付書と、火災保険の証券を出して、月いくら出ていくかを1つの数字にしてください。 利息の欄、税額、保険料。全部足して12で割る。修繕の分は、月1〜2万円を足しておく。
出てきた数字が、あなたの家の「本当の値段」です。高いか安いかは、まだ決めなくて構いません。知ることが先です。僕の場合は、この数字を知るまでに9年かかりました。知るだけなら、今夜で済みます。
次の話は、3-4「家が余る時代が来た。あなたの家、売れますか?」です。楊さんの「売った日の値段は、誰にも分からない」が、僕の頭から離れなくなりました。
高いか安いかは後。知るのが先。
情報元
- 講座 第3回「資産にはそれぞれ役割がある」「お金を生まない物は、資産ではなく負債」(講義ノートより)
- 固定資産税・都市計画税 | 各市区町村の課税(納付書・市区町村の窓口)/ローンの利息:返済予定表(金融機関)
- 家の数字(ローン残高・金利・税額・保険料・修繕の積み立て) | 三平の家の場合の試算
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



