第3部 3年目 売上より利益。身軽にして現金化 第6話
息子に家を残す。それ、迷惑じゃないですか?
縁側でスイカを食べながら「この家、将来はおまえに」と言った。息子は1秒で「いらない」。東京で暮らす息子に福岡の家を残したら、どうなるか。残す物を決める3つの問い。

01 息子は、1秒で「いらない」と言った
8月の夕方、息子の部屋に段ボールが積んでありました。東京の友人の所へ、しばらく行くのだそうです。リュックと、履き慣れたスニーカー。部屋は、もう半分、東京でした。「卒業したら東京に出る」は、1年前から聞いていました。
縁側で、2人でスイカを食べている時に、僕は言いました。「この家さ、将来はおまえに、って思ってたんだけど」。息子は、スイカを口に入れたまま、言いました。「いらない」。1秒も、かかりませんでした。
「いらないって、資産だぞ」。言った瞬間、自分の声が、親の声と同じだと気づきました。息子は続けました。「東京にいるのに、福岡の家をもらって、どうすんの」。
僕は、楊さんに「お金を生まない物は負債」と教わり、空き家の数字を見て、妻と修繕を数えました。それでも、息子に残すことだけは、良いことだと思っていたのです。
昭和の親の顔で、「資産だぞ」と言っていた。
あなたが残そうとしている物を、残される人は「欲しい」と言いましたか?
02 残した家は、息子の宿題になる
家を相続すると、何が起きるか。一般的なことだけ書きます。住まなくても、固定資産税は毎年来ます。草取り、換気、台風のあとの屋根の確認。遠くに住んでいれば、誰かに管理を頼む費用がかかります。
売ろうとしても、買い手がいなければ売れません。壊そうとすれば、解体の費用がかかります。木造の家でも、広さと場所によって、数十万円から数百万円になることがあります。空き家のまま放っておくと、市区町村から指導や勧告が入る仕組みもあります。
相続の手続きや税金は、家の評価や家族の形で変わるので、ここでは書けません。税理士や司法書士に聞くべき話です。僕に言えるのは、1つだけ。家は「もらって終わり」ではない。もらった日から、お金と手間が始まる。
息子が東京で働きながら、福岡の空き家の草を取りに帰る。年に数回。そのたびに、交通費と、休みの日が消える。僕が残そうとしていたのは、資産ではなく、宿題でした。残す側が「良かれ」と思うほど、残される側の宿題は、重くなる。
家は、もらった日から始まる。
03 「迷惑っていうか、重い」

スイカを食べ終わってから、僕は息子に、ナオミさんの話をしました。「店のナオミさん、実家が空き家で、お母さんが亡くなってから誰も住んでないんだって。税金だけ、毎年払ってる」。
息子は、しばらく庭を見ていました。「それ、僕もそうなるってこと?」「残したら、そうなる」。「草取りに、東京から帰ってくるの?」。半分笑って、半分本気の声でした。息子は、庭の端の、草が伸びた所を見ていました。
「じゃあ、残さないで。正直に言うと、お金のほうがいい」。僕は聞きました。「迷惑か?」。息子は少し考えて、言いました。「迷惑っていうか……重い」。
その「重い」が、僕には一番こたえました。息子は、家を嫌っているのではありません。この家で育ったし、縁側のスイカも好きだと言う。でも、東京で自分の人生を始める時に、福岡の家が肩に乗っているのは、重い。僕は、声に出して言いました。「残されたほうが、迷惑なんだな」。息子は、黙ってうなずきました。
息子の「重い」が、一番こたえた。
04 残す物を決める、3つの問い

その夜、楊さんに教わった考え方で、紙に3つの問いを書きました。残される人は、それを使うか。残される人は、それを持ち続けられるか。残される人は、それを手放せるか。
息子の答えは、3つとも「いいえ」でした。住まない。東京からは管理できない。売れるか、壊せるかは、分からなくてこわい。3つとも「いいえ」の物は、財産ではなく、宿題です。
楊さんが講座でよく言う「シンプルイズベスト」は、投資の話として聞いていました。でも、残す物も同じでした。分けられる物。持ち続ける費用がかからない物。手放しやすい物。家は、その3つの逆です。分けにくく、費用が続き、手放しにくい。
残す側は「良い物を残した」と思いたい。でも決めるのは、残す側の気持ちではなく、残される人の人生です。親の夢を、子どもの肩に乗せない。家族で先に話す。それだけで、残す物の半分は決まります。
3つとも「いいえ」なら、それは宿題。
05 残すために、持たない

お盆の夜、妻と息子と3人で食卓に座りました。妻は、前の話で言った通り「この家を持ち続ける前提は、やめたい」と言いました。息子は「僕は東京に行くし、家はいらない。でも、父さんと母さんが住みたいなら、住めばいい」と言いました。
僕が決めたのは、3つです。1つ目、家を「息子に残す物」の一覧から外す。住みたい間は住む。でも、残すために持つことはしない。2つ目、息子に残す物は、息子が困らない形にする。何をどう残すかは、税理士と相談しながら、4年目以降に決めていきます。3つ目、毎年お盆に、3人で「残す物の話」をする日にする。
話が終わった時、息子が言いました。「父さん、こういう話、もっと早くしてほしかった」。妻も、うなずいていました。僕は、2年かけて楊さんから学んだことを、家族には、たった1晩で話したのです。「もっと早く」。この言葉を、僕は4年目に、楊さんの前で、自分でも言うことになります。
残すために、持たない。家を手放すかどうかは、まだ先の話です。でも「息子のために持つ」という理由は、この夜、なくなりました。
息子のために持つ、という理由が消えた。
06 今日やること:残す相手に「欲しい?」と聞く
今日やることは、1つだけです。あなたが残そうとしている物を1つ選んで、残す相手に「これ、欲しい?」と聞いてください。 家でも、店でも、車でも構いません。
答えが「欲しい」でも「いらない」でも、どちらでも大丈夫です。聞くのに、お金はかかりません。大事なのは、聞いた、という事実です。僕は、聞くまでに9年かかりました。聞いたら、1秒で答えが返ってきました。
次の話は、3-7「家を持つ見栄、本当はかっこ悪くないですか?」です。息子に残さないと決めたあと、僕の中に最後まで残っていたのは、見栄でした。
聞くまで9年。答えは1秒。
情報元
- 講座 第15回「シンプルイズベスト」・第14回「家族のお金と資産運用のルール」(講義ノートより)
- 空き家への指導・勧告の仕組み | 空家等対策の推進に関する特別措置法(国土交通省の解説)
- 解体の費用 | 家の広さ・構造・場所で変わる(一般論・業者の見積もりで)
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



