第3部 3年目 売上より利益。身軽にして現金化 第9話
車1台の一生の値段、家1軒分でした
引っ越して1か月、車に乗ったのは2回。駐車場代は1回5千円。30年分を数えたら約2,100万円(試算)。同じ月5.8万円をどっちに乗せるか、妻と電卓を並べて決めた話。

01 月極駐車場で、キーを握ったまま動けなかった朝
家を売って、借りた部屋に移って1か月。日曜の朝、僕は月極駐車場に立っていました。借りた部屋には駐車場がなく、歩いて5分の月極を、月1万円で契約していたのです。
キーを握って、思い出そうとしました。この1か月で、この車に何回乗ったか。答えは、2回でした。仕入れは配達に変え、通勤は自転車になり、休みの日は妻と歩いて買い物に行く。車の出番が、なくなっていました。
この車を買ったのは、開業した年です。「お客様の送迎と、薬剤の仕入れに要る」。店のため、と自分に説明して、ローンを組みました。でも本当は、開業した自分へのご褒美でした。白いワゴンに乗って店の前に着く朝が、好きでした。
駐車場の紙を思い出しました。月1万円。1か月に2回なら、1回停めるだけで5千円です。乗っていない車に、僕は毎朝、お金を払っていました。
1か月で2回。駐車場代は、1回5千円だった。
あなたの車は、先月、何回動きましたか?
02 乗らなくても、車は毎月お金を食べる
その夜、僕は初めて、車の「一生の値段」を数えました。買う時の値段ではありません。持っている間に出ていく、全部のお金です。
保険、税金、車検、駐車場、ガソリン。そして買い替え。1台を8年乗るとして、42歳から72歳までの30年で4台。1台ずつは「たった」の額でも、30年分を足すと、約2,100万円になりました(僕の場合の試算)。福岡の郊外なら、中古の家が1軒買える額です。
しかも、このお金の多くは、乗らなくても出ていきます。保険は乗らなくても来る。税金も、車検も、駐車場代も、車が動いていようがいまいが、同じ額です。ガソリン代だけが、乗った分です。
1年目に楊さんに習った言葉が、ここでも当てはまりました。お金を生む物が資産、お金が出ていく物が負債。僕の車は、月に2回だけ動く、月5.8万円の負債でした。家と同じことを、僕はもう1つ、駐車場に停めていたのです。
家と同じ物を、もう1つ、駐車場に停めていた。
03 電卓と車のキーを並べて、妻と数えた夜

妻にも電卓を渡して、2人で数え直しました。妻は最初、少し寂しそうでした。「孫を乗せて、遠くまで行く夢があったんだけど」。僕は言いました。「その日は、借りればいい。その日のために、30年払うのは違う気がする」。
次の日、楊さんに電話で聞きました。「車に払っている月5.8万円を、別の所に置いたら、どうなっていましたか」。楊さんは、講座の第2回の数字をそのまま言いました。「月3万円を年6%で30年なら、計算では約3,000万円やね。毎年6%じゃなくて、長い平均の話やけど」。
そして、こう続けました。「車は、乗るたびに減る。市場の平均は、過去の記録では、持っとくだけで長い平均では増えてきた。同じ月のお金を、どっちに30年乗せるか。それだけの話よ」。楊さんは「車を売れ」とは言いませんでした。いつもそうです。数字を並べて、決めるのは僕に任せる。
電話を切って、妻に伝えました。妻は電卓を置いて言いました。「車より、そっちに乗せたい」。
同じ月5.8万円を、どっちに30年乗せるか。
04 車の30年の値段と、複利で答え合わせ
数えた内訳を、表にしました。あなたの車とは数字が違うはずなので、数え方だけ持ち帰ってください。

いちばん大きいのは、買い替えでした。8年ごとに「そろそろ新しいのを」と思う気持ちが、30年で約800万円になります。次が駐車場とガソリン。毎月1万円ずつ、30年で360万円ずつ。小さな額が、長い時間で大きくなる。これは複利と同じ形です。向きが逆なだけで。
講座の第2回で習った複利は、「時間が長いほど、小さな額が大きくなる」という話でした。月3万円でも、30年続けると、計算では約3,000万円。これは毎年6%ずつ増えるという意味ではなく、長い期間をならした平均での試算です。下がる年もあります。
もう1つ数えました。必要な時だけ借りた場合です。月に2回、1回5千円で借りると、月1万円。30年で約360万円。持つと約2,100万円、借りると約360万円(どちらも試算)。差は、約1,700万円でした。借りる日には、予約の手間があります。でもその手間は、30年で1,700万円の値段ではありませんでした。
小さな額が長い時間で大きくなる。複利と同じ形で、向きが逆。
05 自転車で店に着く朝

翌月、車を売りました。ローンの残りを返して、手元に約100万円が残りました(試算)。そのまま、未来の口座に入れました。駐車場も解約しました。
仕入れは配達、通勤は自転車、遠出はその日だけ借りる。やってみると、困ったのは最初の2週間だけでした。雨の日は、店の近くまでバスで行きます。最初は面倒でしたが、バスの中で本を読む時間ができました。妻は「荷物が、また1つ減った」と言いました。
意外だったのは、スタッフの反応です。和子さんが「先生、自転車のほうが若く見えますよ」と笑い、塚ちゃんは「僕も車、やめようかな」と言いました。塚ちゃんは結婚を考えている年頃です。「結婚してから数えると、揉めるよ」と、僕は先輩づらをしました。
白いワゴンで店の前に着く朝は、もうありません。代わりに、並木道を自転車で走る朝があります。どちらが好きかと聞かれたら、今は迷わず、こちらです。
困ったのは、最初の2週間だけだった。
06 今日やること:車の「1回あたりの値段」を出す
今日やることは、1つだけです。車にかかる1年のお金を5つ書き出して、先月乗った回数で割ってください。 保険、税金、車検の積み立て、駐車場、ガソリン。1年分を12で割って、月の額にします。それを先月の回数で割ると、「1回いくらで乗っているか」が出ます。
1回あたりが千円なら、あなたの車はよく働いています。5千円を超えていたら、僕と同じです。売るかどうかは、まだ決めなくて構いません。まず数字を知ること。僕は、その数字を見るまで8年、知らずに払っていました。出した数字は、家族に見せてください。僕の妻は、その数字で決めました。
次の話は、3-10「家と車を手放したら、1,000万円が動いた」です。3年目の終わりに、未来の口座がどうなったかを、全部お見せします。
1回いくらで乗っているか。まず、割ってみる。
情報元
- 講座 第2回「複利」(月3万円を年6%で30年の試算)・第3回「資産にはそれぞれ役割がある」(講義ノートより)
- 車の30年の費用は、三平の場合の試算(買い替え4台・駐車場月1万円・ガソリン月1万円・車検整備年8万円・任意保険年6万円・税金自賠責年5.5万円)。車種・地域・乗り方で大きく変わります
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



