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この話は、三平の4年目の話です(全体の地図を見る →)

第4部 4年目 要らんことせんの投資 第11話

もっと早く知りたかった。複利は10年目から化ける

月3万円を年6%で30年。100万円を年10%で50年。計算して、僕はため息をついた。複利は竹と同じ。地面の下が、10年続く。

朝の竹林。地面から顔を出したばかりの、若い竹

01 電卓を叩いて、ため息が出た夜

100万円を入れた月の終わり、僕は講座の第2回を聞き直していました。楊さんが黒板に書いた2つの計算を、自分でもやってみたくなったからです。

1つ目。月3万円を、年6%で30年。入れた元本は1,080万円。計算の答えは、約3,000万円でした。入れた額の、ほぼ3倍です。

2つ目。100万円を、年10%で50年。答えは、約1.2億円。僕は電卓を二度、叩き直しました。間違っていませんでした。黒板の数字は、紙の上では知っていました。でも自分の指で叩くと、重さが違いました。

そして僕は、ため息をつきました。22歳で美容師になった時、この計算を知っていたら。月3万円なら、見習いの給料からでも、どうにかなったかもしれない。23年前の自分に、腹が立ちました。

23年前の自分に、腹が立った。

あなたがこの計算を初めて見たのは、何歳の時ですか?

02 最初の10年は、何も起きない

複利の表を見て、もう1つ気づいたことがあります。最初の10年は、ほとんど何も起きないのです。

月3万円・年6%の場合、10年目の元本は360万円。運用後は約492万円。増えてはいますが、劇的ではない。20年目で元本720万円に対して約1,386万円。30年目で、元本1,080万円に対して約3,000万円。

つまり、30年で増えた約1,900万円のうち、後半の10年だけで1,600万円以上が増えています。最初の10年の増え方は、全体の1割にも届きません。見た目では、貯金とそう変わらない。10年目に通帳を見て「これなら貯金でもよかった」と思う人の気持ちが、僕には分かります。

放っておくと、何が起きるか。多くの人は、この最初の10年で「たいして増えない」とやめてしまう。楊さんの言葉を借りれば、「複利の一番の敵は待てないこと」です。僕も、志波ファンドで月5%を見た時、待てない人の1人でした。

増える10年の前に、増えない10年がある。

03 竹林で、「地面の下が長い」

竹林の道で、楊さんと見上げる三平の後ろ姿

次の日曜、楊さんは僕を街外れの竹林に連れて行きました。歩きながら、楊さんは上を指しました。「この竹、何年でここまで伸びたと思う?」

僕は「5、6年ですか」と答えました。楊さんは首を振りました。「地面の上に出てからは、あっという間。でも、地面の下で根を張る時間が、長いんだよ。竹は、地面の下が長い」。

「複利も同じ。10年、地面の下。誰にも見えない。本人にも、ほとんど見えない。そこでやめる人が多いから、化けた竹を見た人が少ない」。

「三平くんは4年目で100万円。まだ、根の先がちょっと伸びた所だよ。ここで『増えない』と言って掘り返したら、根は切れる」。

「三平くんは45歳。あと20年なら、地面の下の10年を越えて、10年分は上に出る。息子さんなら、50年。あの竹より高くなるよ」。僕はその日、初めて「時間」をお金と同じ重さで考えました。

帰り道、楊さんはもう1つ言いました。「素人は上がったら買い、下がったら売る。根が張る前に、掘り返してしまう。要らんことせん、はそのための言葉だよ」。

根が張る前に、掘り返さない。

04 月3万円・年6%・30年の線

家に帰って、計算を1枚の図にしました。紺の線が入れた元本、金色の線が運用後です。

月3万円を年6%で30年の折れ線(試算):10年目 元本360万円→約492万円、20年目 元本720万円→約1,386万円、30年目 元本1,080万円→約3,014万円。10年目まではほぼ重なり、後半で離れていく

10年目までは、2本の線がほとんど重なっています。それが15年を過ぎたあたりから離れ始め、最後の10年で一気に開く。地面の下と、地面の上。竹の絵と、同じ形でした。

6%は仮定の数字です。毎年6%ではなく、3割下がる年も、3割上がる年もある。金融庁の資料では、1985年以降のどの年に始めても、20年持てば年率2〜8%に収まっていました。6%は、その真ん中あたりの仮定です。

数字より、形を覚えてほしいと思います。最初は寝ていて、あとから立ち上がる線。この形を知っているかどうかで、10年目の夜に、やめるかどうかが決まります。

僕はこの図を、店のバックルームにも貼りました。朝、鏡を拭く前に見るためです。線の前半にいるのが自分だと思えば、今日の残高がどうであれ、やることは変わりません。

数字より、線の形を覚える。

05 先取りを、月8万円から10万円に

ノートに、ゆるやかに上がる1本の線を描く手元

ため息をついた翌日、僕は3つのことを変えました。1つ目、未来の口座への先取りを、月8万円から10万円に上げました。23年前には戻れないので、今の額を増やすしかありません。

2つ目、ノートの最初のページに、あの線の形を描きました。数字は書かず、線だけ。10年目の夜に見返すためです。

3つ目、この計算を、妻と息子に見せました。妻は図を見て、「私のパート代からも、月1万円」と言いました。息子は黙って、電卓で自分の年齢から50年分を計算していました。その顔を見て、次の話が決まりました。

ナオミさんにも見せたら、「私、41歳。地面の下10年なら、51歳で上に出るんですね」と笑いました。遅すぎる年齢は、たぶん、ない。

和子さんは「51歳の私は、どうなります?」と聞きました。僕は「地面の下の10年を、一緒に待ちましょう」と答えました。待つ仲間がいると、10年は少し短くなります。

23年前には戻れない。今の額を増やすしかない。

06 今日やること:自分の数字で、1回だけ計算する

今日やることは、1つだけです。「月◯円・年6%・30年」を、自分の数字で1回計算してください。 金融庁のサイトにある資産運用シミュレーションなど、公的な計算機で構いません。

月1万円でも、月5千円でも大丈夫です。大事なのは答えの金額ではなく、10年目・20年目・30年目の数字を並べて見ること。前半の地味さと、後半の伸びを、自分の目で確かめてください。

計算が終わったら、あなたの年齢に30を足してみてください。その数字が、竹が地面の上に出る頃です。

計算機の数字は、約束ではありません。でも「増えない10年」を先に知っておけば、その10年を、裏切られたと感じずに済みます。

次の話は、4-12「息子には、僕と同じ失敗をさせない」です。電卓を叩いていた17歳に、僕が全部を話した日の話です。

あなたの年齢に、30を足してみる。

情報元

  • 講座 第2回「月3万円・6%・30年」「100万円を10%で50年=1.2億円」「竹は地面の下が長い」「複利の一番の敵は待てないこと」「素人は上がったら買い、下がったら売る」(講義ノートより)
  • 20年の積立で年率2〜8%に収れん | 金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」の図「資産・地域を分散した積立投資の運用成果の実績」(1985年以降・円建て・毎月積立)
  • 試算は三平の計算(毎月複利・税金と手数料は含まない)

※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)