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この話は、三平の5年目の話です(全体の地図を見る →)

第5部 5年目 回して、つなぐ 第2話

「一発逆転」に心が動いた夜、楊さんが言ったこと

「このテーマで10倍」。閉店後に見た動画に、忘れる仕組みを作ったはずの僕の心が動いた。楊さんの答えは「月と地球」。9割守って、1割だけ。

昼の青空に浮かぶ、白い月

01 閉店後、スマホの中の「10倍」

5年目の春、夜10時の店です。床を掃いて、レジを締めて、僕は椅子に座ってスマホを開きました。流れてきたのは、「このテーマの株で、2年で10倍」という動画でした。

話している人は、自信にあふれていました。グラフは右肩上がり。コメント欄は「もっと早く知りたかった」で埋まっていました。僕は、2本目、3本目と続けて見ました。どの動画も、最後は同じ言葉で終わりました。「乗り遅れないで」。

気がつくと、未来の口座の残高を、頭の中で10倍にしていました。全部入れたら。いや、半分でも。店を、もっと早く手放せるかもしれない。

忘れる仕組みを作って、正月に妻と表を見た、あの僕です。たった3か月で、心が動いていました。店の床はきれいになっていたのに、僕の頭の中だけが、散らかっていました。

3か月前に作った仕組みが、動画3本で揺れた。

あなたなら、その夜、スマホを閉じられますか?

02 一発を狙うと、全部を入れたくなる

放っておくと、何が起きるか。一発の話の怖さは、「少しだけ」で済まないことです。10倍を見た頭は、1割では物足りなくなる。「どうせやるなら」と、地球を削って月に足したくなる。僕の頭の中では、もうそれが始まっていました。しかも10倍の話は、10分の1になった人の話を載せません。

講座で聞いた記録を思い出しました。アメリカの成長株を集めた指数は、過去に7割下がり、元に戻るまで約10年かかった。市場の平均でさえ、半分になった年がある。テーマを絞った物は、もっと大きく動きます。

そして、半分に下がると、戻すには2倍に増やす必要がある。全部を入れて半分になれば、僕の5年は、1年目に戻ります。志波ファンドで300万円を失った時より、ずっと大きな額で。

「素人は上がったら買い、下がったら売る」。動画で10倍を見てから入れる僕は、まさに「上がったら買う」人でした。頭では分かっている。それでも心が動く。それが、一発逆転という言葉の本当の力です。

頭では分かっていて、心が動く。それが一発逆転の力。

03 屋上で、「月と地球」

夕暮れの屋上で、昇る月を眺める楊さんと三平の後ろ姿

その週末、僕は楊さんに正直に話しました。「10倍の動画を見て、心が動きました」。楊さんは怒りませんでした。代わりに、ビルの屋上に僕を連れて行きました。

東の空に、大きな月が昇っていました。楊さんは言いました。「コアは守り、サテライトは攻め。地球と月だよ」。

「地球が、市場の平均。三平くんの9割。これは動かさない。月が、攻めの分。1割まで。テーマ株でも何でもいい。ただし、月は地球の周りを回るだけで、地球より大きくはならない」。

「月に入れる額は、最初から半分になってもいい額にしなさい。半分になって眠れないなら、それは多すぎる。そして、月が増えても、地球に足すだけ。月を大きくはしない」。

僕は聞きました。「1割で、意味があるんですか」。楊さんは笑いました。「意味は2つ。1つは、全体の数字。もう1つは、三平くんの心を、地球から引き離さないこと。心が月に行っているあいだ、地球は無事。それが、1割の仕事だよ」。

月は地球の周りを回るだけ。地球より大きくはならない。

04 9割を10%、1割を20%で回すと

帰って、楊さんの話を円グラフにしました。紺が地球、金色が月。

9割は守り・1割は攻めの円グラフ(概念):コア=地球(守り)9割は市場の平均・長い平均で年10%の目安/サテライト=月(攻め)1割は年20%を狙う・最初から半分になってもいい額だけ。計算 0.9×10%+0.1×20%=11%

講座の計算は、こうです。9割を年10%の目安で、1割を年20%の目安で回すと、全体の平均は11%。0.9×10%+0.1×20%で、11%です。

攻めを足しても、全体は1%しか変わりません。逆に、月の1割が半分になっても、全体では5%減るだけです。地球が動かなければ、月がどう動いても、暮らしは変わらない。

これが、楊さんの言った「2つの意味」の1つ目でした。そして2つ目は、1割の月があるおかげで、僕が9割の地球に手を出さなくなること。攻めたい気持ちの、逃がし場所です。

10%も20%も、毎年ではなく長い平均の仮定です。月は、ゼロになる年もあると思って入れる。それでも地球は、要らんことせん。

講座では、この図を「月と地球」と呼びます。大きさの違いを、名前で覚えてしまう。名前があると、動画を見た夜にも、思い出せます。

攻めたい気持ちに、逃がし場所を作る。

05 「月の上限」を、紙に書いて貼った

大きな瓶と小さな瓶。小さな瓶に硬貨を1枚入れる手元

その夜、僕は3つのことをしました。1つ目、未来の口座の1割を「月」と決めて、その金額を紙に書き、台所の壁に貼りました。上限です。これ以上は、どんな動画を見ても入れない。

2つ目、その1割の中から、「最初から半分になってもいい額」だけを、実際に動かしました。残りは、現金のまま月の引き出しに置いてあります。動画の中のテーマではなく、自分で調べた物を、少しだけ。動かす前に、手数料と中身を、4-9で決めた順番で見ました。攻めの引き出しでも、見る順番は同じです。

3つ目、月の口座が増えたら、増えた分は地球に移す、と決めました。月を大きくしないための決まりです。妻は壁の紙を見て言いました。「月が地球より大きくなったら、教えてね」。

そして、あの動画は、もう見ていません。1割の月があるだけで、不思議と見たくなくなりました。逃がし場所がある人は、暴れずに済むのだと思います。

逃がし場所があると、人は暴れない。

06 今日やること:「半分になってもいい額」を、1つ書く

今日やることは、1つだけです。「最初から半分になってもいい額」を、1つ書いてください。 それがあなたの月の上限です。資産の1割より大きいなら、1割まで下げてください。

書いた額は、家族に見せてください。僕は台所の壁に貼りました。一発逆転の話は、これからも、何度でも来ます。その時に見るのは、動画ではなく、壁の紙です。

攻めるのは、悪いことではありません。楊さんも止めませんでした。悪いのは、月が地球より大きくなること。そして、月を増やすために地球を減らすこと。順番が逆になった時だけ、月は危ない物になります。線さえ引いてあれば、心が動いても、口座は動きません。

次の話は、5-3「倒れた日、一番こわがったのは僕じゃなかった」です。月と地球を決めた春の終わり、僕の体が止まった日の話です。

心が動いても、線があれば口座は動かない。

情報元

  • 講座 第12回「コアは守り、サテライトは攻め。地球と月」「9割を10%・1割を20%で回すと平均11%」・応用編「NASDAQ100は7割下がり回復に約10年」・第11回「S&P500でも半分になる。だけど回復する」・第1回「50%下がると戻すのに100%要る」・第2回「素人は上がったら買い、下がったら売る」(講義ノートより)

※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)